養育費の計算で元夫の総収入はどんなに高くても年収2000万円とした事例!(平成28年8月9日東京家庭裁判所決定)

本審判(平成28年8月9日東京家庭裁判所決定)は、既に離婚をした元夫婦間の養育費の請求事件です。元夫の総収入は、年間6000万円でしたが、養育費の算定にあたっては、元夫の総収入は2000万円を限度として計算すべきと判断しました。
年収が2000万円を超えるケースにおける養育費の算定方法について、極めて重大な指針を示したものといえます。

まず、本件では、元妻は、養育費の金額について元夫と合意したことはない、離婚後は一度も養育費をもらったことがないなどと述べていましたが、実際はそれは虚偽の事実でした。このことから、元夫は、元妻による養育費の請求は、不誠実であって、権利の濫用として認められないなどと主張していました。

これに関する裁判所の判断は以下の通りです。

相手方(元夫)が,申立人(元妻)との間で,養育費の支払に関する合意をし,養育費を継続的に支払ってきたにも関わらず,申立人は,相手方との間で養育費の支払に関する合意をしたことがなく,離婚後一度も相手方から養育費が支払われたこともないなどと事実と異なる主張をして,本件調停の申立てをしたことが認められ,このような申立人の対応には不誠実な面があったといわざるを得ないものの,未成年者にはこのような申立人の不誠実な対応について何ら責任はないのであるから,この点をもって,申立人による相手方への養育費の分担請求が権利の濫用に当たるということはできない。

確かに元妻の行動は不誠実なものであり問題があるが、そのことの責任を子供に帰するべきではないとして、権利の濫用には当たらないと判断しました。養育費請求はひいては子の利益を図るものですので、妥当といえるでしょう。

次に、裁判所は以下の通り、元夫の収入を年間6000万円と判断しました。

相手方は,本件会社の代表取締役として,平成26年に6000万円の給与収入を得ており,相手方の平成24年から平成26年までの給与実績を踏まえると,平成27年以降も平成26年と同程度の給与収入を得ることができると認められるから,相手方の総収入については6000万円(給与)とみるのが相当である

そして、注目すべきは、次の判断です。

相手方の総収入は,算定表における義務者の収入(給与)の上限額(2000万円)を超えるものであることが認められる。しかしながら,養育費は,その性格上,義務者の収入に応じて際限なく増えていくものではないから,本件の養育費の算定については,算定表上の義務者の収入の上限額をもって算定方式により行うのが相当である。

「算定表上の義務者の収入の上限額」というのは、年収2000万円のことです。
つまり、元夫の年収が6000万円であるにしても、養育費の算定の際は、年収を2000万円とみなすべきと判断したのです。
その理由として裁判所は、養育費が、元夫の収入に応じて際限なく増えていくものではないことを挙げています。

いわゆる養育費というのは、子を扶養するための費用、つまり、子を養うためのお金です。
より具体的に述べると、元夫の「生活」レベルと同水準の「生活」レベルを子供にも保障しようというものです。
つまり、養育費とは、元夫と同水準の「生活」をさせるために必要な費用を負担するというものです。

逆に言うと、「生活」のためではないもの、例えば、過度な遊興費や投資、過度な娯楽のための費用までを求めることができるわけではないということになります。
そして、人間にとっての「生活」レベルというものは、一定段階を超えるとほとんど変わりません。人間というハード自体は変わらないからです。

以上の考えから、裁判所は、元夫がどんなに高額所得者であっても、一定の金額を超えて請求することはできないものと判断しました。
養育費というものの概念から考えれば、至極妥当な内容と言えるでしょう。

結論として、本件で元夫の負担すべき金額は、元妻の収入が高いこともあり、月額12万円と判断されました。

本審判は、東京家裁が、養育費の義務者の総収入を2000万円を限度とすべきと明言し、いわゆる養育費算定表では判断が付きかねる高額所得者における養育費額の算定指針を示した点、そして養育費が元夫の収入に応じて際限なく膨らむわけではないことを確認して権利者を牽制したという点で、重要な先例価値を持つものと言えるでしょう。


 

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