夫が払う婚姻費用額。ローン完済の自宅に住んでいることが重視された事例!(平成28年8月10日東京家裁決定)

この審判(平成28年8月10日東京家裁決定)は、子供を連れて別居を始めた妻による夫への婚姻費用(生活費)の請求の事案です。東京家裁は、夫がローンを全額完済済みの自宅に居住していることから、夫が負担すべき婚姻費用を相場より割高に認定しました。

まず、東京家裁は次の通り、婚姻費用に関して一般的な見解を述べました。

婚姻費用の分担額は,義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して,義務者及び権利者の各基礎収入(総収入から税法等に基つく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して推計した額)の合計額を世帯収入とみなし,これを,生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数(成人100,15歳以上20歳未満の子90,15歳未満の子55)によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費で按分して割り振られる権利者世帯の婚姻費用から,権利者の基礎収入を控除して,義務者が分担すべき婚姻費用を算定するとの方式(判例タイムズ1111号285頁以下参照)に基づいて検討するのが相当である。

以上の点は、全ての裁判所が則っている原則になります。いわゆる養育費・婚姻費用算定表は、この考え方に乗っ取りながら作成された表になります。

そして、今回、裁判所は、単に算定表に当てはめるというやり方ではなく、上記の考え方に則って計算作業を行った上で、夫の負担すべき金額を導き出しています。

現在の申立人の収入は年額990万0542円,相手方の収入は年額1238万7732円であるから,各基礎収入については,その収入額に照らし,申立人につき約346万円(基礎収入割合35%),相手方につき約433万円(基礎収入割合35%)とし,子らの年齢に照らし,その生活費指数を,いずれも55として,これらを上記1の算定方式に当てはめると,権利者世帯である申立人世帯に割り振られる婚姻費用は年額528万円程度〔≒(346万円+433万円)×{100+55+55/100×2+55+55}〕となり,相手方が負担すべき婚姻費用の分担額は年額182万円程度(=528万円-346万円)と算定される。

上記の計算では、まず、夫と妻のそれぞれの収入の35%が、生活費に回るべきものであること、そして、子供(今回は2人)の生活費は、大人の55%程度と考えるのが相当であることを確認しています。その上で、別居をしている妻と子供2人のために、収入が妻より高い夫が負担すべき金額を割り出しています。

こうすると、上記計算では、夫が妻に払う生活費は年額182万円、月額にすれば15万1600円程度となるはずです。
しかしながら裁判所は、夫が住宅ローンを完済した自宅に住み続けていることをもって、次の通り判断しました。

相手方は単身自宅において居住しており,上記1の算定方式における基礎収入割合において特別経費として考慮されている住居関係費(なお,相手方の収入における,統計上の住居関係費は月額7万1948円である(前掲判例タイムズ294頁参照)。ここでいう,住居関係費に固定資産税は含まれない。)を負担していないこと等を踏まえれば,相手方の負担すべき婚姻費用分担額は,月額18万円程度であると認められる。

判例タイムズ誌の1111号に、東京家裁・大阪家裁の裁判官たちが作成した、養育費・婚姻費用に関する論文が載っています。そして、その論文に添付されている資料があるのですが、その中で、収入レベルに応じた住居関係費が掲げられています。今回の裁判所は、本来平均的な人が負担すべき住居関係費を、夫が負担していないことをもって、その分割高の婚姻費用額を定めたのです。

これに対しては、妻にとっては棚からぼた餅の話であるため、妥当な計算といえるのかという批判がありうるかもしれません。逆に、妻が実家暮らしの場合でも、住居関係費がかかっていないことがあまり重視されない現在の裁判所の運用と比較すると、不公平であるとの批判は免れないでしょう。

さらに、裁判所は、子供が私立中学に通っている点に関して、次の通り、夫に割高の負担を求めました。

長男は私立中学に在学しているところ,前記1の標準的な生活費指数には,公立中学における学校教育費相当額分(平均年額13万4217円。前掲判例タイムズ295頁参照)が考慮されているにとどまる。
本件において相手方は,長男が私立中学校に進学すること自体を積極的に否定していないことに加え,当事者双方の収入が相当高額であること等を併せ考慮すれば,平成28年4月以降の婚姻費用分担額については,上記イの額に加えて,前記第2の1(3)の私立中学の学費等年額58万1400円と上記学校教育費相当額分の差額約45万円については,別途,当事者双方の基礎収入で按分して割り振った額を相手方に負担させるのが相当である。

まず、私立学校費用について、長男の私立中学校の学費を夫も負担すべきなのかという問題があります。
これについて裁判所は、夫が私立中学進学に反対していないこと、そして、夫と妻の収入が高額であることを理由に、夫も学費を負担すべきとしました。

さらに、夫はどの程度負担すべきなのかという問題があります。
これについて裁判所は、私立学校費と公立学校費用の差額を、夫と妻の収入で按分して負担すべきであるとしました。
公立学校費用については、既に前述の計算で考慮済みなので、その差額を新たに考慮するということです。そして、今回の裁判所は収入額で按分すべきとしましたが、ここは批判もありえます。
というのは、大阪高裁が、以前に「標準的算定方式による婚姻費用分担額が支払われる場合には、双方が生活費の原資となし得る金額が同額になる」(平成26年8月27日大阪高裁決定/判タ1417号120頁)ことを理由として、考慮されるべき私立学校費用について、夫と妻が半額ずつ負担すべきと判示しているからです。

裁判所によって、私立学校費用について、夫と妻の収入額比での按分になるのか、あるいは、半分ずつの負担になるのか。裁判例は分かれているところですが、最近の東京家裁の考えが表れたという点で、重要な先例となるでしょう。

なお、授業料に当たらない費用や、学校外の塾代についてどうすべきかについても重要な判断をしています。

申立人は,長男が私立中学に進学するに当たって要した諸費用(私立中学に納付すべき費用のうち,授業料ないし授業料に準ずる費用に当たらないもの(旅行積立金,副教材費及び自然教室費)を含む)のほか,長男の私塾の費用や子らの習い事の費用等についても,婚姻費用として相手方も負担すべきである旨主張するが,これら各費用は,前記(1)のとおり算定される婚姻費用のうち,子らの生活費指数において考慮されている教育関係費相当部分の枠内において賄うべきものといえるから,申立人の主張は採用できない。

結論として、授業料に当たらない費用や学校外の塾代、習い事費用については、既に前述の計算(大人に比して55%の生活費)に入っているものであるため、新たに考慮することはできないとしました。この点については、これまでの裁判所の運用に則ったものといえるでしょう。


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