妻の夫に対する裁判提起が不法行為であるとして、夫に慰謝料が認められた事例!(平成27年7月16日東京地方裁判所判決)

この裁判(平成27年7月16日東京地方裁判所判決)は、別居中の夫が、妻に対して、以前に妻から訴訟を提起されたことが、それ自体不法行為であるとして、損害賠償請求をした事案です。
裁判所は、以前の妻による訴訟提起が、事実的根拠を欠くものであり、不法行為に該当すると判断しました。

まず、訴訟提起自体が不法行為に当たりうるのかという点について、裁判所はかつての最高裁の判断を引用して次の通りのべています。

法的紛争の当事者がその解決を求めて訴えを提起することは,原則として正当な行為であり,当該訴えの相手方に対する違法な行為となるのは,当該訴えに係る訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知ることができたのに,あえて提起したなど,当該訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られると解される(最高裁判所昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1ページ,最高裁判所平成22年7月9日第二小法廷判決・裁判集民事234号207ページ参照)。

その上で、妻による前の訴訟は、そうした事実的根拠を欠くものであると述べました。

本件別件訴訟(前の訴訟のこと)において被告(妻)が求め,及び主張した請求及びその原因は,・・・のとおりであって,原告(夫)と被告(妻)が別居している間に原告が被告名義で借り入れたとするB等に対する本件借入れの返済をしなかったことが被告に対する債務不履行又は不法行為に当たり,その残債務額相当額の賠償を求めるというものである(被告が本件別件訴訟において陳述した訴状の「請求の原因」の冒頭には,「本件は、夫婦関係にあったものの別居状態にあった期間中に、夫である被告が、妻である原告名義で借入をして費消しながらその返済をせず、それによって原告に与えた損害について、原告が賠償を求めるものである。」との記載がある。)。
 ・・・のとおり,本件別件訴訟は,被告による請求の放棄によって終局しているところ,本件別件訴訟に係る一件記録の写しを含む本件全証拠を精査しても,当該請求の原因とされた事実の裏付けとなる証拠はもとより,当該証拠の存在をうかがわせるものも,認めることができない。かえって,被告は,別件離婚訴訟における本人尋問において,上記のとおり本件別件訴訟に係る請求の原因の根幹を成すと考えられる原告との最初の別居の始期について,平成12年の末頃と供述し(被告は,・・・のとおり,本訴においても,別居の始期について上記の供述と同様の主張をしている。),さらに,本件借入れがされた期間中において株式会社●(夫の経営する会社)に係るクレジットカードを被告が所持し,使用していたことを自認する供述をしていることを認めることができる(なお,・・・のとおり,本件別件訴訟において被告が証拠として提出した引き直し計算書及び取引履歴照会表における借入れのうちの最終のもののうち,株式会社●に係るものは,平成12年12月30日である。)。加えて,被告(妻)は,別件離婚訴訟に先立ってした調停の申立てに際して裁判所に提出した書面において,「相手方が申立人のカードを使用し、返済しないため、申立人は相手方に損害賠償請求訴訟をしたところ、証拠不十分であった為請求放棄し、自己破産するに至った。」旨を記載していることも認めることができる。
 これらの事情に鑑みれば,本件別件訴訟において被告の主張した権利又は法律関係は,その事実的根拠を欠くものであったと言わざるを得ない。

さらに、上記のように事実的根拠がないことについて、妻としても容易に知り得たとして、その訴訟提起は著しく相当性を欠き、不法行為に該当するものと述べました。

被告(妻)は,・・・のとおり,原告(夫)との別居を始めた時期について思い違いをしていたものであり,また,被告(妻)が代理人弁護士を通じてした確認に対して原告(夫)が回答をしなかったことから,本件別件訴訟に係る訴えを提起することになった旨を主張している。
 しかしながら,原告との別居や別居期間中のクレジットカードの所持及び使用という事実は,本件別件訴訟に係る訴えの提起から10年を超えて過去に遡る出来事であったとはいえ,被告が自ら直接経験した事実に関わる出来事なのであるし,別居の時期の詳細についての記憶が必ずしも明確でなかったとしても,自らが提出した証拠(とりわけ株式会社B作成に係る物販の利用明細(別件訴訟における甲第8号証))等を検討すれば,自らの利用に係るものがあることは容易に分かるはずである。また,原告に対してしたとする確認も,原告の資力に関する確認がされているだけで,本件別件訴訟の請求の原因の有無を確認するものではないというほかない。したがって,被告の上記の主張は,いずれも採用することができない。
 そうすると,本件別件訴訟に係る訴えの事実的根拠を欠くことを被告が知りながら当該訴えを提起したとまではいうことができないとしても,少なくとも,通常人であれば容易にそのことを知ることができたのにあえて提起したものであることが明らかであると言わざるを得ない。
 
以上によれば,本件別件訴訟に係る訴えの提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに当たるものとして,違法な行為であり,原告に対する不法行為となるものというべきである。

訴訟提起自体は、裁判を受ける権利を享受している人間である以上、正当なものとみなされるのが原則です。ですが、全く法律上、または事実上の基礎を欠く訴訟提起は、被告となる相手方を不必要に巻き込み、その時間や労力を無駄に費やさせるものです。そうした場合は不法行為となり、損害賠償請求が認められます。

本件も、かつての妻による訴訟提起が不法行為になるものと認められました。しかし、それによって認められた慰謝料額は、わずか15万円でした。訴えられた方の被った労力を考えると、十分なものと言えるか疑問でしょう。
本件は訴訟提起自体が不法行為に該当するものとみなされた貴重な事例的価値を持つものであるとともに、それが夫婦間の訴訟であった点で大きな関心を呼ぶものといえます。

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