婚姻費用における事情変更に関する裁判例

この審判(平成26年7月18日大阪家庭裁判所審判)は、一度決められた婚姻費用額を減額できる事由とされる、「事情の変更」が認められるかどうかについての決定です。
この事件では、夫が会社を退職勧奨により退職したこと、夫が他の女性との子供を認知したこと、妻の監護している子が成年に達したことなどが、事情の変更にあたるかどうかが争われました。

結果として、裁判所は、いずれの場合についても、事情の変更に該当すると述べました。

まず、退職勧奨により退職したことについては、次のように判断されました。

平成21年審判及び前件審判確定後,申立人は,稼働していたK会社を退職し,現在は,失業手当金を受給しながら求職活動を行っているところ,仮に,申立人が再就職できたとしても,申立人の48歳という年齢や契約社員という直近の就労形態,従前の職歴等に照らせば,平成21年審判当時や前件審判当時と同程度の収入を直ちに得られる可能性は必ずしも大きいとは認められず,現時点においては,平成21年審判で定められた婚姻費用の額を維持することが実情に適さなくなったというべきであり,相当程度の事情の変更があったと認められ,婚姻費用減額の必要性があると認められる

また、以前に婚姻費用額を取り決めたときには高校生であった子供が成人に達した点については、次の通り述べています。

 C(子供)は,平成26年×月,在籍していた通信制高校を退学している。Cは,群発頭痛の疾病を有していることもあって,現時点でも無職,無収入の状態にあり,同居している相手方(妻)がCを扶養している状況は,Cが高校在学中であった平成21年審判時及び前件審判時と何ら変更はない。
しかしながら,Cが群発頭痛の疾病を有しており,継続的に就労するには相当の困難が伴うことは容易に推察されるものの,当該疾病の存在によりDに稼働能力がないとまでは証拠上評価することはできない。また,仮に,Cに稼働能力が認められないとしても,成年に達した子については,基本的には自助の原則が妥当すると解されるのであって,既に25歳となったCの扶養義務を誰がどの程度負担するかは,親族間の扶養義務として検討・考慮されるべき問題であるから,Cが無職,無収入であって相手方が事実上Cを扶養している事実のみをもって夫婦間の扶養義務に基づく婚姻費用分担の一部としてCの扶養を考慮するのは相当ではない
したがって,Cが高校を退学になった平成26年×月以降,本件においてCを未成熟子として考慮するのは相当ではなく,Cの状況の変化は事情の変更に該当するというべきである。

ここでは、婚姻費用の金額には、成人となった子供への面倒をみる費用は含まれないということを、改めて確認したものといえます。

そして、他の女性との間の子供(H)を認知したことが、事情変更にあたるかについて、次の通り述べました。

平成21年審判後,申立人は,Hを認知しているものの,平成21年審判当時(※つまり、以前の婚姻費用の取り決め時),Hは既に出生しており,Hの出生を申立人は認識していたと認められることからすれば,申立人によるHの認知を相手方が婚姻費用の減額事由として主張することは,少なくとも前件審判時点では,信義則ないし公平の見地から許されないものであったと認められる。
しかしながら,現時点において,Hの出生から6年,申立人によるHの認知から1年半,平成21年審判に基づく申立人の相手方に対する婚姻費用分担義務が定められてから5年がそれぞれ経過している。このような状態で,今後もHの存在を無視したまま婚姻費用分担義務を定めるとすれば,申立人の信義則違反の責任をHのみに負わせる結果ともなりかねず,Hの福祉の観点からは相当でない。特に,申立人の収入が減少している本件においては,Hの養育に影響を与える程度は,平成21年審判当時に比しても深刻といわざるを得ない。
したがって,Hの福祉の観点からは,申立人の婚姻費用分担能力について再吟味をする必要があるというべきであり,申立人によるHの認知も本件における事情変更として考慮するのが相当である。

この事件では、以前の婚姻費用取り決め時に、既に他の女性との間に子供が生まれていました。裁判所は、この取り決め直後に認知をし、それを理由に婚姻費用の減額をすることは、信義誠実の原則に反し認められないものの、すでにその後5年を経った今は、当該認知をした子供の福祉も考えなければならないとしました。婚姻費用の減額を認めないと、認知をした子供に渡せる養育費用が減額されかねず、その子供の成長に悪影響を与えてしまうという懸念があったわけですね。

本件審判は、婚姻費用減額を認められる「事情の変更」への該当性が問題となる事例判断として、今後も大いに参考になる裁判例といえるでしょう。

 

 

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