DNA鑑定と「親子関係不存在確認の訴え」

この判決は(平成26年7月17日最高裁判所判決)は、いわゆる「(親子関係が)推定される嫡出子」については、DNA鑑定によって親子関係がないことが明らかであっても、親子関係不存在の訴えによって父子関係を争うことはできないとしたものです。結論的には、訴えが却下となりました。

通常、嫡出子についての親子関係の存在を争う場合には、嫡出否認の訴えとい制度が利用されます。
しかし、この制度は出生後1年以内に訴えを提起しなければならず、DNA鑑定によって親子関係の不存在が確認できたとしても、間に合わないことが通常です。
そこで、こうした親子関係不存在の訴えによって争うことができるのかが争点となりましたが、最高裁判所は結論としてそれを否定しました。もっとも、反対意見を述べた判事もおり、法律論的に今後も議論されるものでしょう。

昨今、芸能人(大沢樹生さん)が親子関係不存在確認の訴えを申立て、それが認容されたことで世間の注目を浴びた裁判がありましたが、その件は、「(親子関係が)推定されない嫡出子」の場合であって、事情が異なります。本件は、結婚後200日以降に出生した子の問題であり、「(親子関係が)推定される嫡出子」の場合となります。

最高裁の判断は次の通りです。

民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照)。そして,夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,子が,現時点において夫の下で監護されておらず,妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。このように解すると,法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが,同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。
もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成7年(オ)第2178号同10年8月31日第二小法廷判決・裁判集民事189号497頁,前掲最高裁平成12年3月14日第三小法廷判決参照)。しかしながら,本件においては,甲が被上告人を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず,他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない

親子関係がないにもかかわらず、親としての責任を押し付けられてしまう夫と、それとは関係なく父の子として育ってきた子供の利益をどう調整するか。本件は、そのぎりぎりのラインについて最高裁が苦渋の判断をしたものといえるでしょう。

ただし、上記最高裁が「もっとも」以下で説明しているように、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、「(親子関係の)推定を受けない嫡出子」(講学上は「(親子関係の)推定の及ばない嫡出子」)に当たり、その場合であれば親子関係不存在の訴えが認められるとしています。そうすると、今回、DNA鑑定によって親子関係がないことが生物学的に明らかな場合も、同様に考えるべきでないのかという疑問が生じます。

この判決は、5人の最高裁判事が行いましたが、5人のうち2人が結論に反対し、親子関係不存在の訴えを適法なものとすべきだと主張しました。つまり、あと1人でも反対する判事がいれば、最高裁の判断として全く正反対の結論になったということです。

反対意見を出した白木勇裁判官は、次の通り述べています。

近年,科学技術の進歩にはめざましいものがあり,例えばDNAによる個人識別能力は既に究極の域に達したといわれている。検査方法によっては,特定のDNA型が出現する頻度は約4兆7000億人に一人となったとされる。世界の人口は約70億人と推定されるから,確率的には,同一DNA型を持つ人間は地球上に存在しない計算になる。この技術により,父子間の血縁の存否がほとんど誤りなく明らかにできるようになったが,そのようなことは,民法制定当時にはおよそ想定できなかったところであって,父子間の血縁の存否を明らかにし,それを戸籍の上にも反映させたいと願う人情はますます高まりをみせてきているといえよう。

以上の事情を踏まえると,民法の規定する嫡出推定の制度ないし仕組みと,真実の父子の血縁関係を戸籍にも反映させたいと願う人情とを適切に調和させることが必要になると考える。その実現は,立法的な手当に待つことが望ましいことはいうまでもないが,日々生起する新たな事態に対処するためには,さしあたって個々の事案ごとに適切妥当な解決策を見出していくことの必要性も否定できないところである。本件においては,夫婦関係が破綻して子の出生の秘密が露わになっており,かつ,血縁関係のある父との間で法律上の親子関係を確保できる状況にあるという点を重視して,子からする親子関係不存在確認の訴えを認めるのが相当であると考えるものである。

この考えは、法律の解釈を立法者意思のみに依るのではなく、裁判官による法の発見を許容することを要請するもので、法学上も大変重要な示唆を含むものといえるでしょう。

 

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