面会交流の拒否により親権者が変更された例

平成26年12月4日福岡家庭裁判所審判は、これは、面会交流を身勝手に拒否していたことにより、親権者変更という一種のペナルティーを受けたと評価しうる、非常に貴重な事例です。

この事件では、母親は、父親に対して、「子供が父親に会いたくない」ということを理由として、面会交流を拒否していました。

裁判所の判断を引用しますが、本件では次のような状況にありました。

監護状況調査の結果によれば、申立人(父親)と事件本人(子供)の関係が良好であったことは明らかであるところ、交替監護が終了した平成二三年一月末以降、事件本人(子供)の拒絶により、面会交流開始時の事件本人(子供)の引き渡しが次第に難航するようになり、同年七月以降は全く引き渡しが実現していない。また、平成二五年三月に実施された一回目の試行的面会交流ではある程度円滑な交流が実現したものの、同年五月に実施された二回目の試行的面会交流では最後まで円滑な交流が実現せず、その後も事件本人の強い拒絶により、申立人と事件本人との面会交流を実施することが事実上困難な事態に陥っている。

つまり、父親と子供の関係は良好であったにもかかわらず、その後、父親と子供が別々に暮らすようになった後、子供がなんらかの理由で父親と会うことを拒絶するようになったというのです。

これについて、裁判所は次のような事実を指摘し、子供が父親を拒絶するようになった理由は母親にあることを明らかにしました。少々長いですが引用します。

(2) 交替監護終了後の事件本人の拒絶の原因について
ア この点、①交替監護開始直後の平成二二年七月一三日、相手方(母親)が申立人(父親)の監護下にある事件本人(子供)にあうためにCマンションを訪れ、申立人(父親)が相手方(母親)と事件本人(子供)とを面会させたところ、相手方(母親)が泣き出したこと、②平成二三年一月三〇日の引き渡しにおいて、相手方(母親)は、申立人(父親)に対し、面会が終わった後にEマンションに戻れることを事件本人(子供)に説明するよう求めていたこと、③同年二月一一日や四月八日に、申立人(父親)がEマンションに事件本人(子供)を迎えに行っても、相手方(母親)は部屋の奥から出てこようとしなかったこと、④相手方(母親)は、同年七月八日及びそれ以前に、事件本人(子供)に対し、申立人(父親)と離婚するために面会に応じてもらいたいと頼んでいたこと、⑤相手方(母親)は、面会交流の引き渡しの際に、事件本人(子供)を笑顔で送り出すことを拒否しており、本件の期日においても、申立人(父親)と会っておいでと明るく振る舞うのはかえって事件本人(子供)に不審に思われるなどと述べていること、⑥相手方(母親)は、平成二四年夏に父方祖父が倒れた際の申立人(父親)とのやりとりにおいて、申立人(父親)との高葛藤の原因は前件調停における財産分与の処理に関する不満が原因であり、そのことを理由に事件本人(子供)に面会を促すことができないとの趣旨のメールを送信していたことなどによれば、相手方は、事件本人の前でも、申立人(父親)自身への否定的感情や面会交流を快く思っていないとの気持ちを隠すことができず、事件本人(子供)が申立人(父親)との面会を楽しむことに罪悪感を覚えさせるような言動を取り続けていたと推認するのが合理的である
イ また、①前件監護状況調査におけるEマンションの家庭訪問の際、事件本人(子供)は、調査官を玄関で出迎え、いきなり「僕はママ(相手方)といたいです」と述べたこと、②D保育園の送迎の際の事件本人(父親)の態度に申立人、相手方(母親)による差異はなかったことが確認されているが、相手方(母親)は、申立人(父親)が迎えに来ることを事件本人は嫌がっていると認識していたこと、③平成二三年二月一二日、申立人(父親)は事件本人(子供)を抱いてEマンションに向かっていたが、事件本人(子供)は、Eマンションが近づくと、申立人(父親)に抱っこされると相手方(母親)が怒ると述べて急に降りようとしたこと、④事件本人(子供)は、同月二六日のパイプオルガンの演奏会において、相手方(母親)に隠れるようにして、申立人(父親)を避けるような態度を取っていたこと、⑤事件本人(子供)は、同年五月一四~一六日の面会交流を楽しんだにもかかわらず、相手方(母親)宅に戻ると、申立人(父親)に対する怒りの気持ちなどを述べていたことなどによれば、事件本人(子供)は、上記アのような相手方(母親)の態度により、相手方(母親)への忠誠心を示すように強く動機付けられ、相手方(母親)の前では申立人(父親)との良好な関係を隠そうとしていたものであるが、相手方(母親)の単独監護下での生活が長くなるにつれて、申立人(父親)を拒絶する傾向を強めていったと推認するのが合理的である
(3) 二回目の試行的面会交流が失敗した原因について
この点、①事件本人(子供)は、一回目の試行的面会交流では、開始当初はプレイルームから逃げだそうとしたものの、次第に申立人(父親)と二人で遊ぶことができるようになったのに対し、二回目の試行的面会交流では、嫌と言えばプレイルームから出してもらえると相手方(母親)から聞いたと述べて、最後まで申立人(父親)との交流に応じようとしなかったこと、②事件本人(子供)は、一回目の試行的面会交流の終了後、相手方(母親)が迎えに来た途端に態度を一変させ、調査官が事件本人(子供)をプレイルームから出してくれなかったと責め、相手方(母親)の顔をうかがうように見たあと、調査官の手に爪を立てて強くつねるなど強い攻撃性を示したこと、③申立人(父親)は、プレイルームを退室する際、相手方(母親)に対し、「今日はありがとう」と声をかけたが、相手方(母親)は、それに答えることはなく、事件本人(子供)を抱き上げたまま、申立人(父親)の方に顔を向けようとせず、申立人(父親)に対する拒否的な感情を抑えることができない様子であったこと、④相手方(母親)によれば、事件本人(子供)はプレイルームにマジックミラーが設置されていることを認識していたにもかかわらず、相手方(母親)は、一回目の試行的面会交流の後、事件本人(子供)に対し、「ママ見てたよ」と述べたところ、事件本人(子供)は、二回目の試行的面会交流において、申立人(父親)から、プレイルームから出たい理由を問われると、「あっちにマジックミラー」などと述べ、面会交流が相手方(母親)に見られていることを意識したと思われる発言をしたこと、⑤事件本人(子供)は、同年二月一五日、相手方(母親)とともに事前面接調査を受けたところ、その際、申立人(父親)について自ら語ることはあまりせず、相手方(母親)の顔色を窺うような状況であったこと、⑥事件本人(子供)は一回目の試行的面会交流を終えて帰宅した後、相手方(父親)に対し、「Z君は神様から作られなければよかった」と述べるなど荒れていたが、二回目の試行的面会交流を終えて帰宅した後に荒れることはなかったこと、⑦一回目と二回目の試行的面会交流の間には、申立人(父親)と事件本人(子供)とが接触する機会は全くなかったことからすると、二回目の試行的面会交流が失敗した原因は、上記③及び④を含む相手方の言動により、事件本人(子供)が、一回目の試行的面会交流において、申立人(父親)と円滑な交流をしたことに強い罪悪感を抱き、相手方(母親)に対する忠誠心を示すために申立人(父親)に対する拒否感を一層強めたためと推認するのが合理的である

以上のように、裁判所は、母親と子供の言動を細かく挙げて、調査官が子供や母親と面接のときの子供の言動や、1回目の試験的面会交流と2回目の試験的面会交流における、子供の言動の不合理な変遷に着目しました。そして、子供が父親に拒絶反応を示すようになった理由に母親への「忠誠心」を挙げたのです。

その上で、次の通り、裁判所は、親権者を母親から父親に変更することを命ずる一方、監護権については母親に留保させるべきとしました。

 (2) 親権者を変更する必要性について
ア 面会交流を確保することの意義について
双方の親と愛着を形成することが子の健全な発達にとって重要であり、非監護親との面会交流は、非監護親との別離を余儀なくされた子が非監護親との関係を形成する重要な機会であるから、監護親はできるだけ子と非監護親との面会交流に応じなければならならず、面会交流を拒否・制限しうるのは、面会交流の実施自体が子の福祉を害するといえる「面会交流を禁止、制限すべき特段の事情」がある場合に限られると解されている(細矢郁ほか「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方-民法七六六条の改正を踏まえて」・家庭裁判月報六四巻七号七五頁参照)。
そして、本件において、かかる特段の事情が認められないことは明らかであるところ、申立人と事件本人との関係が良好であったことに照らせば、相手方の態度変化を促し、事件本人の申立人に対する拒否的な感情を取り除き、円滑な面会交流の再開にこぎ着けることが子の福祉にかなうというべきである(なお、小澤ケース研究論文の一五六頁によれば、①拒絶のプロセスに巻き込まれた子どもは、非監護親との関係が失われる結果、監護親の価値観のみを取り入れ、偏った見方をするようになる、②監護親が子どもの役割モデルとなる結果、子どもは、自分の欲求を満たすために他人を操作することを学習してしまい、他人と親密な関係を築くことに困難が生じる、③子どもは、完全な善人(監護親)の子である自分と完全な悪人(非監護親)の子である自分という二つのアイデンティティを持つことになるが、このような極端なアイデンティティを統合することは容易なことではなく、結局、自己イメージの混乱や低下につながってしまうことが多い、④成長するにつれて物事が分かってくると、監護親に対して怒りの気持ちを抱いたり、非監護親を拒絶していたことに対して罪悪感や自責の念が生じることがあり、その結果、抑うつ、退行、アイデンティティの混乱、理想化された幻の親のイメージを作り出すといった悪影響が生じるなどとされている。)。
イ 相手方が親権者と指定された前提が損なわれていること
前件暫定合意及び前件調停の内容及びそれに至る経緯に照らせば、申立人(父親)が、相手方(母親)を監護者ないし親権者と指定することに同意したのは、相手方(母親)が面会交流の確保を約束したことが主たる理由であったと認められる。また、前件監護状況調査において、調査官は、事件本人(子供)と会えなくなるという申立人(父親)の不安は現実的なものと考えられるとの意見を示していたから、相手方(母親)には、その意見を真摯に受け止め、面会交流の円滑な実施に向けて必要な配慮を行うことが強く期待されていたといえる。
しかるに、前記認定のとおり、相手方(母親)の言動により事件本人(子供)が面会交流に応じない事態となっており、相手方(母親)を親権者として指定した前提が損なわれていると評価せざるを得ない。
ウ 親権者変更以外に現状を改善する手段が見当たらないこと
申立人(父親)は、調停や履行勧告などの法的手段や、面会交流支援機関(FPIC)を利用するなどして、面会交流の再開に向けて取り得る手段を尽くしてきたことが認められる。そして、申立人(父親)は、本件調停事件においても、面会交流さえ確保できれば、親権者変更に拘らないとの態度を示してきたものであるが、前記のとおり、二回目の試行的面会交流は失敗し、その後も面会交流の再開の目途がたたなくなっている。また、相手方(母親)は、面会交流を実現するには時期を待つしかないなどと述べ、事件本人(子供)に対して面会交流を動機づける具体的な方策を持ち合わせていない
そうすると、申立人(父親)において、親権者変更を求める以外に、面会交流が実現しない現状を改善する手段が見あたらないといえる。
エ 親権と監護権とを分属させる積極的な意義が認められること
(ア) 子の身上監護を行うべき親に監護権を含む親権を委ねることが子の福祉にかなう場合が多いことから、親権と監護権とを分属させないことが原則であるけれども、親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情がある場合にはその限りでないと解される。
例えば、①親権者となった一方の親の事情あるいは子の事情で、子が直ちに親権者となった親のもとで生活できず、しばらく他方の親のもとで生活させる必要がある場合や、②一般的に監護者に監護をさせながら、子の監護に重大な問題について、親権者を関与させる余地を残し、共同監護の実を挙げさせる必要がある場合などにおいて、親権と監護権とを分属させることが相当な場合がある(斎藤秀夫=菊池信男「注解家事審判法〔改訂〕」三四九頁、清水節「親権と監護権の分離・分属」、判例タイムズ一一〇〇号一四四頁参照)。
(イ) この点、相手方(母親)の態度の変化を促すことにより、円滑な面会交流の再開にこぎつけることが子の福祉にかなうことは前記のとおりであるところ、そのためには、申立人(父親)に親権を、相手方(母親)に監護権をそれぞれ帰属させ、当事者双方が事件本人の養育のために協力すべき枠組みを設定することが有益であると考える。
当事者双方が親権を有していた交替監護の継続中においては、保育園の行事に当事者双方がそろって出席するなど最低限の協力関係はあったと認められるところ、親権と監護権とを分属させることによって、少なくとも交替監護当時と同程度の協力関係を復活させることが望ましい
申立人(母親)と相手方(父親)とが協力関係を構築することにより、事件本人(子供)を少しでも葛藤状態から解放することも、子の福祉にかなうと考える。
(ウ) また、申立人(父親)は、交替監護の開始前も可能な限り育児に関与してきたものであるし、約半年間の交替監護の期間中の当事者双方の監護状況は、甲乙つけ難いほど、ほぼ十分な監護環境が提供されていたと評されている。調査官は、申立人(父親)の現在の監護態勢に特段の問題は認められないとして、事件本人(子供)の引き渡しがうまくいけば、事件本人(子供)は申立人(父親)及び父方祖母から愛情をもって監護されることが期待できるとの意見を述べている。前件監護者指定事件において相手方(母親)が提出した陳述書によれば、申立人(父親)は、相手方(母親)と同居していたときから、事件本人(子供)の監護のために二年間で少なくとも二三日半の休暇を取得したことが認められ、少なからず事件本人(子供)の監護に関与していたことが窺える。
したがって、申立人(父親)には、親権者として事件本人(子供)の監護養育の一端を担う十分な実績と能力があると認められる。
(エ) 他方、申立人(父親)は、事件本人を引き取った場合のことについても具体的に検討しているけれども、二回目の試行的面会交流の際の事件本人(子供)の反応などによれば、事件本人(子供)の引き渡しが実現しない可能性が高いと考えざるを得ない。そして、子の引き渡しの強制執行を試みて失敗した場合の事件本人(子供)に対する精神的負担や、事件本人(子供)の申立人(父親)に対するイメージが更に悪化するリスクを軽視しえない。
また、監護者が暫定的に相手方(相手方)と指定された平成二三年一月から現在まで、事件本人(子供)は相手方(母親)の単独監護下にあり、面会交流を実施できないことを除けばその監護状況に特段の問題は見あたらないこと、事件本人(子供)は平成二三年四月から福岡県内で生活し、平成二六年四月からはH小学校に入学したことを考慮すると、相手方(母親)による監護を継続させた方が事件本人(子供)の負担が少ないことも否めない。
このように、事件本人(子供)の監護を相手方(母親)から申立人(父親)に移すことを躊躇すべき事情が認められる。
(オ) したがって、本件においては、親権と監護権とを分属させ、当事者双方が事件本人(子供)の養育のために協力すべき枠組みを設定することにより、相手方(母親)の態度変化を促すとともに、子を葛藤状態から解放する必要があること、申立人(父親)には、親権者として事件本人(子供)の監護養育の一端を担う十分な実績と能力があること、事件本人(子供)の監護を相手方(母親)から申立人(父親)に移すことを躊躇すべき事情が認められることからすると、親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情が認められ、親権と監護権とを分属させる積極的な意義があると評価できる。
(3) まとめ
以上のとおり、相手方(母親)が親権者と指定された前提が崩れていること、親権者変更以外に現状を改善する手段が見当たらないこと、親権と監護権とを分属させる積極的な意義が認められることを考慮すると、監護者を相手方(母親)に指定することを前提として、子の福祉の観点から、親権者を相手方(母親)から申立人(父親)に変更する必要が認められる
他方、前記のとおり、事件本人(子供)の監護を相手方(母親)から申立人(父親)に移すことを躊躇すべき事情が認められることを踏まえると、現時点において、監護権を含む親権を直ちに申立人(父親)に帰属させる必要までは認め難い。

親権と監護権を分離し、父親と母親がそれぞれを担うという例はすくないながらも見受けられます。
しかし、本件で裁判所は、そもそも、親権を母親に指定していた前提として、父親との面会交流を実現することを置いていたこと、そして、面会交流が母親の身勝手によってできなかった以上は、母親に親権を帰属させていた前提が崩れたものと指摘しました。面会交流を拒否していたことで、親権を失うことになる。そうした一種のペナルティーを与えた事例として、本件は極めて貴重で、実務上も非常に示唆に富むものといえるでしょう。

 

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