子供を残して出て行った場合の生活費・婚姻費用

知らないと損!子供を残して出て行った妻の生活費(婚姻費用)について注意すべきこと

1 はじめに

離婚問題に直面している夫婦間に子供がいる場合、別居を望んでいる妻としては、子供を連れて一緒に別居するか、子供を残して自分だけ別居することになります。

その場合、私の経験上、圧倒的に多いのが、子供を連れて別居(連れ去り別居)を強行する妻です。

ただ、当然のことですが、子供を残して妻だけが別居(連れ去らない別居)をする場合も存在します。

以下では、妻がこの「連れ去らない別居」をした場合における、別居後の妻の生活費(婚姻費用)の負担について検討します。

2 連れ去らない別居を強行した妻の生活費(婚姻費用)について

(1) 問題点

夫婦は相互に扶養義務を負っておりますので、たとえ別居状態になったとしても、原則として、収入の多い方が収入の少ない方に対して生活費(婚姻費用)を支払う義務(婚姻費用分担義務)を負います(民法760条)。

そして、家庭裁判所実務上、この婚姻費用の具体的な額の算定は、「養育費・婚姻費用算定表」に基づいて行われております。

ただ、ここで問題となるのは、夫婦の間の子についても、夫婦は扶養する義務があることです。

すなわち、夫は別居した妻の生活費(婚姻費用)を負担する義務を負いますが、妻としても自宅に残した子供の生活費を負担する義務を負っているのです。

このような状況において、具体的に生活費(婚姻費用)の支払いをどのように考えるべきかは、上記「養育費・婚姻費用算定表」からは明らかではありません。

(2) 計算方法

このような場合は、夫と妻の基礎収入(年収のうち、生活費に割くべき割合部分)の合計額を算出して、それを基として分担額を計算するのが通常です。

例えば、夫の年収が500万円で、連れ去らない別居をした妻の年収が200万円である場合を考えて見ます。

ここで、まずは、夫と妻の双方の基礎収入を計算します。

基礎収入は、年収に基礎収入率(つまり、生活費に回せる割合のことで、裁判所が設定しています。)を掛けることにより算出します。これは、年収のうち、生活費に回せる金額のことを言います。

なお、基礎収入率は、

・年収100万円まで→42%
・年収125万円まで→41%
・年収150万円まで→40%
・年収250万円まで→39%
・年収500万円まで→38%
・年収700万円まで→37%
・年収850万円まで→36%
・年収1350万円まで→35%
・年収2000万円まで→34%
とされています(松本哲弘「婚姻費用分担事件の審理-手続と裁判例の検討」家月62巻11号57頁)。

さて、上記の例に戻ります。

500万円(給与)の基礎収入率は38%なので、夫の基礎収入は190万円、200万円の基礎収入率40%なので(同上)、妻の基礎収入は80万円となります。

そして、この夫と妻の基礎収入の合計額270万円を、「別居をした妻」側と、「残された夫・子供」側で分配するのです。

この際、親自身の生活費を100とした場合の子供の生活費は、14歳以下の子供は55、15歳以上の子供は90と考えるのが通常です(生活費指数の考え方)。

そうすると、例えば、残されたのが14歳以下の子供2人であるならば、「別居をした妻」側の生活費指数は100、「残された夫・子供」側の生活費指数は210(100+55+55)となります。

そのため、夫と妻の基礎収入の合計額270万円を100と210とで分配すると、「別居をした妻」側は約87万円、「残された夫・子供」側は約183万円となります。

すなわち、上記のご家庭では、「本来妻は約87万円の生活費を使え、夫と子供は約183万円の生活費を使えるはずである」ということになります。

以上より、夫は妻に対して、本来の生活費よりも多くもらっている分(夫の基礎収入190万円から上記約183万円を引いた約7万円)について、妻の生活費として支払うべきことになります。

これを月額に換算すると約5800円となり、これが夫が妻に対して支払うべき婚姻費用の月額となります。

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(3) 妻が夫に支払うべき場合

例えば、夫の年収が500万円、連れ去らない別居をした妻の年収が300万円、残された子供が14歳以下1人、15歳以上1人であるとするとどうでしょうか。

まず、夫の基礎収入は500万円の38%である190万円、妻の基礎収入は300万円の38%である114万円となります。

そして、「別居をした妻」側の生活費指数は100、「残された夫・子供」側の生活費指数245(100+90+55)となります。

そのため、夫と妻の基礎収入の合計額304万円を100と245とで分配すると、「別居をした妻」側は約88万円、「残された夫・子供」側は約216万円となります。

すなわち、この場合は妻側が本来より約26万円多くもらっている(114万円−88万円)ことになりますので、むしろ妻が夫に対して月額約2万2000円(26万円÷12ヶ月)の婚姻費用を支払うべきことになります。

このように、収入の低い妻が収入の高い夫に支払うべき場合も存在するので注意が必要です。

(4) 妻が連れ去らない別居をした場合の婚姻費用の額の具体例

夫の年収300万円、妻の年収120万円、子供が14歳以下1人

上記の計算をすると、夫が妻に支払うべき婚姻費用の月額は約1万3000円となります。

夫の年収500万円、妻の年収400万円、子供が14歳以下2人

上記の計算をすると、むしろ妻が夫に対して婚姻費用として月額約3万5000円を支払うべきことになります。

夫の年収2000万円、妻の年収800万円、子供が14歳以下1人と15歳以上1人

上記の計算をすると、夫が妻に支払うべき婚姻費用の月額は5800円にすぎません。

夫の年収1000万円、妻の年収0円、子供が15歳以上2人

この場合、たとえ連れ去らない別居を強行した妻が無職であったとしても、稼ごうと思えば稼げるであろう額(潜在的稼働能力の額)として120万円程度の年収があることを前提として計算する場合が多いです。

そうすると、夫が妻に対して支払うべき婚姻費用の月額は約4万7000円となります。

弁護士のホンネ  

婚姻費用について当事者間で婚姻費用の話し合いがまとまらず、調停を申し立てた場合、調停員は機械的に「養育費・婚姻費用算定表」に当てはめて結論を出そうとすることがほとんどです。

ただ、「養育費・婚姻費用算定表」といっても、世の中の全ての家族の事情について網羅されているわけではありません。

そして、問題なのは、調停員は法律の専門家ではなく、「養育費・婚姻費用算定表」が妥当しない場合の対応について知っているとは限らないということです。(「調停はダメ!?婚姻費用は「審判で」決めるべきか?」 をご参照ください)

そのため、得てして調停での話し合いは、調停員による独自的な「養育費・婚姻費用算定表」の誤った解釈に基づいて進められたり、調停員により高額な婚姻費用の支払いを要求する妻側の主張と異議を唱える夫側の主張の中間地点に誘導される場合が少なくありません。
その結果、本来負担すべき婚姻費用の額よりも高額で合意に至らされてしまいかねません。

この点、この分野に専門性を有する弁護士であれば、あなたが本来負担すべき婚姻費用の額を原理原則や裁判例での取り扱いを基として、明確な根拠とともにお伝えすることができます。
もし妻との話し合いや調停で合意するのが心配であれば、弁護士の無料相談を受けることをおすすめします。

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